デジタル疲れで感情が鈍感に?:ジャーナリングで「自分の気持ち」を取り戻す練習
デジタル疲れがもたらす「感情の鈍化」とは
私たちは日々、膨大なデジタル情報に囲まれて生活しています。スマートフォンの通知、SNSのタイムライン、メールの受信、仕事のチャットツール。常に新しい情報が流れ込み、私たちの注意を引きつけます。このような環境は、時に私たちの心を疲れさせ、「デジタル疲れ」として現れます。
デジタル疲れは、単なる目の疲れや肩こりだけではありません。情報過多によって思考が散漫になったり、他人との比較から自己肯定感が揺らいだりすることもあります。そして、気づかないうちに「自分の本当の気持ち」が分からなくなってしまう、という現象も起こり得ます。
常に外部からの情報に反応し続けることで、自分の内側で起こっている感情に意識を向ける余裕が失われてしまうのです。嬉しい、悲しい、不安、楽しい。そういったシンプルな感情さえも、「まあ、いいか」「とりあえず流しておこう」と後回しにしてしまい、やがて自分の感情そのものが曖かになっていくように感じられるかもしれません。
しかし、自分の感情を理解し、受け止めることは、心の健康を保つ上で非常に大切です。自分の気持ちが分からなくなると、ストレスの原因に気づけなかったり、本当に求めているものが見えなくなったりする可能性があります。
この記事では、デジタル疲れによって鈍感になったと感じる感情を取り戻すために、「ジャーナリング」という方法がどのように役立つのか、そしてどのように実践すれば良いのかをご紹介します。
ジャーナリングが「自分の気持ち」を取り戻す助けになる理由
ジャーナリングとは、自分の内面に意識を向け、頭の中で考えていることや感じていることを紙やノートに書き出す行為です。特別なルールはありません。自由に、ありのままに書き出すことがポイントです。
ジャーナリングが感情を取り戻す助けになるのには、いくつかの理由があります。
- 感情の「見える化」: 頭の中では漠然としていた感情も、言葉にして書き出すことで、具体的な形になって見えてきます。「ああ、自分は今、こういう気持ちなんだ」と客観的に認識することができます。
- 思考と感情の整理: 書き出す過程で、感情がなぜ湧き起こったのか、その背景にある思考や状況が整理されます。複雑に絡み合った感情や考えが紐解かれ、理解が進みます。
- 感情の言語化能力向上: 自分の感情を言葉にする練習を重ねることで、感情をより正確に捉え、表現する力が養われます。これは、自分自身との対話だけでなく、他者とのコミュニケーションにおいても役立ちます。
- 感情への距離感: 書き出した感情を少し離れて眺めることで、感情に飲み込まれることなく、冷静に受け止めることができるようになります。感情そのものと、その感情を感じている自分を区別する練習にもなります。
デジタル疲れによって感情が鈍感になったと感じる場合、ジャーナリングは、一度立ち止まって自分の内側に意識を向け直し、置き去りにしてしまっていた感情を拾い上げるための有効なツールとなり得るのです。
ジャーナリングで感情を言葉にする具体的な練習法
「自分の気持ちが分からない」と感じている方が、ジャーナリングで感情を言葉にする練習を始めるための具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:準備を整える
- 静かな時間と場所を選ぶ: デジタルデバイスから離れ、邪魔が入らない静かな時間と場所を確保しましょう。たとえ5分でも構いません。
- 書くものを用意する: ノートや手帳、そしてペンを用意します。デジタルツールに慣れている方でも、手書きには思考を落ち着かせ、五感を刺激する効果が期待できます。
ステップ2:自由に書き始める
- 頭に浮かんだことをそのまま書く: 「何を書けばいいのか分からない」と感じるかもしれません。最初はそれで構いません。「何を書けばいいか分からない」とそのまま書き始めても良いのです。
- 思考や感情を止めない: 頭に浮かんだ言葉やイメージ、感情を検閲したり、否定したりせず、出てくるままに書き続けます。途中で文章が支離滅裂になっても大丈夫です。
- 完璧を目指さない: きれいな文章を書こう、誰かに見せるわけではないからこそ、率直に、思ったことをそのまま書き出しましょう。
ステップ3:感情に焦点を当てるテーマを試す
少し慣れてきたら、感情に焦点を当てるためのテーマを試してみましょう。以下はジャーナリングのテーマ例です。
- 今日一日で、心が動いた出来事は何でしたか?その時、どんな気持ちでしたか?
- 最近、何かにモヤモヤしたり、引っかかったりすることはありますか?それはどんな感情ですか?なぜそう感じるのだと思いますか?
- 今、体のどこかに不快感や緊張を感じますか?それはどんな感情と繋がっているように感じますか?
- 最近、嬉しかったこと、楽しかったことはありますか?その時、どんな気持ちでしたか?その気持ちをもっと味わうにはどうすれば良いでしょう?
- 「こうあるべきだ」と感じることはありますか?それは本当に自分の気持ちでしょうか?それとも、外部からの影響でしょうか?
- もし、誰の目も気にせず、好きなように一日を過ごせるとしたら、何をしますか?その時、どんな気持ちになりたいですか?
これらの問いかけに対して、頭に浮かんだ言葉やイメージ、体感覚などを素直に書き出してみましょう。答えが出なくても構いません。問いかけに対し、心がどう反応するかを感じ、それを言葉にしようと試みることが大切です。
ステップ4:感情を言葉にする練習を深める
- 感情語彙を増やす: 「嬉しい」「悲しい」だけでなく、「心地よい」「わくわくする」「穏やか」「落胆する」「うんざりする」「不安」など、多様な感情を表す言葉を知ることで、自分の感情をより具体的に捉えやすくなります。感情語彙のリストなどを参考にしてみるのも良いでしょう。
- 曖昧な言葉でOK: 最初からぴったりの言葉が見つからなくても大丈夫です。「なんかモヤモヤする」「言葉にならない感じ」「胸のあたりがざわざわする」といった曖昧な表現でも、それは確かに自分の感情の一側面です。それをそのまま受け止め、書き留めることから始めましょう。
- 比喩を使ってみる: 感情を具体的なイメージや比喩で表現してみるのも効果的です。「心にトゲが刺さったみたい」「お腹の中に重い石があるみたい」「心が春の陽気みたいに暖かい」など、感覚的に表現することで、感情の理解が深まることがあります。
オフライン時間と組み合わせて効果を高める
ジャーナリングで自分の内面と向き合う時間を持つことは、デジタルから離れたオフライン時間の有効活用そのものです。さらに、ジャーナリングの前後にオフラインの活動を取り入れることで、その効果を高めることができます。
- 書く前に: 軽い散歩をして心を落ち着かせる、好きな音楽(歌詞のないものが内省には向いていることも)を静かに聴く、温かい飲み物をゆっくり飲むなど、リラックスできる時間を作りましょう。
- 書いた後に: 書き出した内容についてすぐに考え込むのではなく、少し時間を置いてみましょう。書くことで解放された感情を落ち着かせるために、ぼーっと空を眺める、手仕事をする、軽いストレッチをするなど、書くこととは違う種類のオフライン活動で気分転換を図るのも良い方法です。
完璧を目指さず、続けることが大切
ジャーナリングは「こうでなければならない」という決まりはありません。毎日書かなくても、長い文章でなくても大丈夫です。週に数回、あるいは気が向いた時に数行でも良いのです。大切なのは、自分のために意識的に時間を取り、内面に目を向ける習慣を持つことです。
「自分の気持ちが分からない」と感じる状態は、デジタル社会に生きる多くの人が経験することです。自分を責める必要はありません。ジャーナリングを通して、少しずつ、自分の内なる声に耳を傾ける練習を始めてみませんか。その小さな一歩が、感情を理解し、自分らしい心穏やかな時間を取り戻すための確かな道しるべとなるはずです。